2014年04月24日
第2回 緑まぶしい かわね路をゆく

抜里のお茶畑を駆けていく「かわね路」号。列車名そのものの風景をゆく
APS-C一眼レフ 85mmレンズ(地図のD地点)
APS-C一眼レフ 85mmレンズ(地図のD地点)
|新緑の車窓から
第二回の今回は、新緑の旅をお届けします。
日本にはたくさんの旅情を誘う路がありますね。飛鳥路や大和路、飛騨路、天城路などが有名です。 JR中央本線には「かいじ」(甲斐路)という名の特急列車も走っています。
ここ大井川鐵道沿線は川根路。SL急行の列車名は、そこからとって「かわね路」号なんですね。

さて、家山駅を出発した千頭(せんず)行き列車は、トンネルをふたつ過ぎると抜里(ぬくり)の集落に入っていきます。
ゴールデンウィークの頃は、新茶のきみどり色が目に優しく爽快な景色です。
千頭行き列車に乗車したら進行方向左側の席を選んで、ゆったりと流れる車窓をカメラに納めてみましょう(地図のE地点)。
この区間は、架線を支える電柱が大井川側にあるため、スッキリとした景色を眺めることができるのです (窓から身を乗り出すと思わぬ怪我をする元になりますので、おやめくださいね) 。
|旅先の会話を愉しもう
とある撮影日。
抜里(ぬくり)駅に降り立つと「サヨばあちゃんの休憩所」という看板がありました。
レトロな駅舎の一部が休憩所に改装され、お茶をいただけるスペースができています。 近所の方でしょうか、にぎやかな話し声が聞こえてきます。
中を覗いてみると、
「どうぞどうぞ、お茶を飲んでいってください」
川根茶と書かれた暖簾の向こうから、笑顔いっぱいのサヨばあちゃんが声をかけてくれました。

サヨばあちゃんは、ふだんは川根地域の一人暮らしのお年寄りに、手作りのお惣菜を作って届けるお仕事をされています。お惣菜作りは18年になるそうで、この休憩所は訪れた旅行者や地元のおなじみさんとおしゃべりを愉しめるようにと開いた場所なのだそうです。抜里のお茶をいただきながら、まずはお茶のことを聞いてみることにしました。
|抜里のお茶
抜里のお茶は、昭和30年代前半から栽培が始まったそうです。 昭和30年代後半まではお茶の葉を鋏で刈っていたので、お茶畑の景色も今とはすこし違っていました。
その様子は、駅舎内に飾られたこの土地の唄「抜里小唄」の挿絵の中に見ることができます。 こんもりとした緑の木が、お茶の木。

挿絵は布団の端切れで作ったものですが、とても綺麗なお茶の木です。
その後、機械化も進んで、現在の抜里のお茶は、火入れ(製茶過程のひとつ)を工夫して、熱めのお湯で淹れてもまろやかな味になるようになりました。一般的に、高級なお茶は低温(70~80度ぐらい)で淹れるものだそうですが、それをもっと手軽に淹れられるようにしたそうです。給茶器で淹れても美味しくいただけるとのこと。 お茶と一口にいっても、さまざまなのですね。
|「これがね。この土地のもの。」

そういって、サヨばあちゃんが、もうひとつ教えてくれたのが落花生の煮物です。 落花生はお茶の栽培以前から行なわれてきた土地の物。 まさに「土産」というわけで、ひとつ手に入れて、その日の夕飯に頂いたのですが、ごぼうやこんにゃく、にんじんと一緒に煮た甘口の落花生は、ついついご飯がすすんでしまう優しい味なのでした。
|お茶の里 恋の里 山の里 夢の里
五輪峠に 朝日がさして
さして明るい 茶のたより
春はさかりの みどりの里に
茶の芽つみます 紅だすき
ヤレヤレ抜里は お茶の里
丘の観音 願いをかけて
かけてうれしい 縁結び
夏は大井の 河原の月に
濡れてはずかし 影二つ
ヤレヤレ抜里は 恋の里
山の小鳥も あの娘にほれて
ほれて集まる 村まつり
秋は紅葉の 裏山づたい
幼なじみの 栗ひろい
ヤレヤレ抜里は 山の里
西の山なみ 屏風にたてて
たてて行かまい よりあいに
冬はぬくとい 川根の里に
梅が咲きます ちらほらと
ヤレヤレ抜里は 夢の里
(抜里小唄)
駅舎に飾られている抜里小唄の歌詞です。昭和の初期頃の風景が目に浮かんできます。ささやかなものほど永遠のものなのかななんて、ぼんやりしていたら、上り「かわね路」号の長い汽笛が聴こえてきました。川根温泉笹間渡(ささまど)駅の発車を知らせる汽笛は、山々にこだましてここでも良く聴こえるのです。
「普段そのままの良いところの工夫や知恵を伝えていきたいですね」と話してくれたサヨばあちゃんの休憩所は、旅行者がふらっと、あいてたから来ましたよと入れる気軽さと温かさがあります。
この日おしゃべりをしている短い間にも、静岡から来たというご夫婦や写真を撮りに浜松から写真を撮りにやって来た人などでにぎわいました。

抜里駅
今日は地元の方と話が出来たおかげで、土地の事を知る「旅」になりました。 そろそろ時間だよとばかりにやってきた蒸気を見送って、休憩所も僕の撮影も今日はおしまい。 また今度、遊びにいくのがとても待ち遠しい場所ができました。
※「サヨばあちゃんの休憩所」は、2014年5月ごろまでは、天気の良い日のお昼から午後三時半頃まで開所予定。不定休。(2014年3月29日 抜里駅にて取材)
大井川鐵道沿線撮影マップ
【eしずおか事務局より】
「ファインダーの向こうから」は月一回の更新です。次回公開は2014年5月29日の予定です。
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Posted by 日刊いーしず at 12:00